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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
十一
十一
寮にはおまさという女中がいたこと、母親が酒を飲んだこと、娘は長い看病疲れで、かなり弱っているようにみえた。と語っていたことなどを、内村伊太夫は記憶をたどりながら話した。
「どうしたんだ」と話し終ってから内村が訊き返した、「あの件でなにか不審なことでもあるのか」
「いや」と千之助はあいまいに云った、「べつの事でひょっと思いついたんだが、どうやら見当が違ったようだ」
邪魔をして済まなかったと云って、千之助はすぐに立ちあがった。
油があったにしても、一軒の火事ぐらいで三人が骨になるほど焼けるだろうか。まして母と娘は丈夫な躯であった。母親は酔い、娘は看病疲れで弱っていたにもせよ、――なにかそこにわけがありそうだ。油。一人は酔い、一人は疲れてい、他の一人は瀕死の病人。油がひどく燃えた。女中は夕方になってから急に暇が出て帰された。
「こんなふうに偶然の重なることは稀ではない」と千之助は呟いた、「しかし細工をしたということも考えられる、仮に細工をしたとすれば、誰が、どんな理由だったろう」
彼はその点に考えを集中した。
明くる日、青木千之助は「むさし屋」へ当ってみた。