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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
二
うばいは繁昌し、人に羨まれるようなむさし屋の主人が、本当はどんな貧乏な人より貧しく、どんな不仕合せな人よりも不仕合せだった」
世間はこんなものなのだろうか、とおしのは思った。
幸福でたのしそうで、いかにも満ち足りたようにみえていても、裏へまわると不幸で、貧しくて、泣くにも泣けないようなおもいをしている。世間とは、本当はそういうものなのかもしれない。――そうだとすれば、おっ母さんのような人はいっそう赦すことができない。心では救いを求めて泣き叫びたいようなおもいをしながら、それを隠してまじめに世渡りをしている人たち。そういう人たちの汗や涙の上で、自分だけの欲やたのしみに溺れているということは、人殺しをするよりもはるかに赦しがたい悪事だ。
「ああ」とおしのは呻いた。
二
女中が茶を替えに来たとき、おしのは窓框に肱を掛け、その上に顔を伏せたまま、眠ったような恰好をしていた。
「まあ、どうなさいました」と女中が坐りながら声をかけた、「障子をあけたままで、うたた寝などをなすっていると、お風邪をひいてしまいますよ」
「火事を見ていたのよ」と云っておしのは顔をあげた、「そうしたらなんだか気持が悪くなってしまって」