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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

「女中さんが来ますよ」

「来やあしないよ」彼は立ちあがって手をさし出した、「このうちのことは私がよく知っている、呼ばなければ誰も来る気遣いはないんだから、さあ」

「立たせてちょうだい」

「酔っちまったね」

源次郎は炬燵をまわり、おしのをうしろから抱き起こした。酔って力のぬけたような、やわらかにぐったりとした娘の躯は、源次郎の欲望をかきたて血を狂わせたようだ。彼は片手でおしのを抱き、片手で襖をあけた。次の間には夜具がのべてあり、絹の丸行燈や、枕許の盆なども揃っていた。

「あちらに包みがあるの」とおしのが囁き声で云った、「持って来て下さいな」

源次郎は風呂敷包みを持って来た。

「屏風をまわして」とおしのは云った、「着替えるまで見ないでね」

「行燈へ火を入れよう」と源次郎が云った。

彼が丸行燈に火を移し、襖を閉めると、屏風の中からおしのが、彼の寝衣を出してよこした。もちろんこの家のものである、彼は気もそぞろな動作で、手早く着替えをし、「いいかい」と声をかけた。

「いいわ」とおしのが答えた。

源次郎が屏風をまわってゆくと、おしのは長襦袢になって夜具の上に坐り、扱帯をしめようとするところだった。