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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
たのです」
「そのときおそのという人は、中村菊太郎という子供役者といっしょで、御主人の死骸が隣り座敷にあるというのに、その菊太郎と平気で酒を飲んでいたんです、いい機嫌に酔って、死んだ人のことを平気で悪く云い、おまえの本当の父はこの人ではない、日本橋よろず町の丸梅の主人で源次郎という人だ、とうちあけたのです」
「そんなに詳しいことを、どうしておよねさんが知っているんだ」と源次郎が咳をして訊き返した、「おしのから聞いたのか」
「その娘は死んだ父親が好きでした」とおしのは穏やかに云った、「――世間のどんな娘より父が好きで、ふだんから母の仕打を憎らしく思っていたんです、そうして、自分が不義の子だと聞いたとき、父が臨終になにを云いたかったか、ということがわかり、母も、母といっしょに父を苦しめた男たちも、赦すことはできないと思ったんです」
「わかった」と源次郎が云った、「やっぱりおしのから聞いたんだ、そうだろうおよねさん」
おしのは黙って彼の眼をみつめた。
五
「おしのが生きているというのは本当なんだな」源次郎は急に寒さを感じたような表情で問いかけた、「おまえさんはおしのを知っている、たしかにその話はおしのから聞いたんだろう、いったいおしのはいまどこにいるんだ」