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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
源次郎は口をあいた。なにか云おうとするらしいが、舌が、硬ばって言葉にならず、全身が小刻みにふるえだした。
おしのはそのようすを、眼も動かさずにみつめていて、やがて胸を隠し、夜具の脇にあった着物を引きよせると、それを肩に掛けながら立ちあがった。源次郎は躯をずらせて、これも着替えに立とうとしたが、おしのは横眼で見て、「いけません」と云った。
「あなたは泊ってゆくんです」
源次郎は立ちかけた膝をおろし、屏風を背にして、途方にくれたように坐った。おしのは手早く着替えを済ますと、夜具を中にして、源次郎と向き合って坐った。
「あたしはあなたも殺すつもりでした」
「どうしてだ」と彼は吃りながら、舌のもつれるような口ぶりで訊き返した、「どうしてそんな、四人も殺さなければならなかったんだ」
「話してもあなたにはわからないでしょう、わかるような人なら、恥ずかしくって生きてはいられない筈です、あなたは」とおしのは囁き声で、相手の心臓を刺しとおすように云った、「――自分の血を分けた娘と逢曳きをし、さんざんあまいことを云ってくどき、今夜はいっしょに寝ようとしたんですよ」
「それは」