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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
六
「私は、私は力ずくでも止めるぞ」
「やってみて下さい、一と声叫べば女中が来るでしょう、どうせ自首するんですから、町方を呼んでもらって、あなたの眼の前でお繩にかかりますよ」
源次郎は両手をだらっと垂れた。
「力ずくで止めないんですか」とおしのは云った、そして、夜具の枕許にある釵と、紙の上にのっている花片を指さした、「――それがおしのからあなたへのかたみです、忘れずに持って帰って下さい」
そして静かに隣り座敷へ出ていった。
「おしの、それはいけない」と源次郎はしゃがれた声で呼びかけた、「そうしてはいけないよ、おしの」
だがその声は低くかすれているため、おしのには聞えなかったであろう。源次郎は恐怖そのものといった眼で、銀の釵と、山椿の血のように赤い花片をみつめていた。
六
十二月二十七日の午後。
青木千之助は八丁堀の役宅で、溜っていた書類の整理をしていた。朝からの雨が雪になるかと思ったが、寒さがきびしいばかりで雪になるようすもなく、雨落の石を打つあまだれの音が、気のめいるような陰気な調子で、低く、ゆっくりと呟いているのが聞えた。
手が凍えてきたので、筆を措き、火桶で手指を暖めていると、声をかけて、同僚の岡田朔太郎がはいって来た。