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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

行燈の光で座敷の中を見まわすと、小机の香炉の側に手紙があった。彼は小机を火鉢の脇へ移し、「青木さま」と上書のあるその手紙を、披いて読んだ。

――約束にそむいて申訳がない。

手紙は走り書きで、初めにまず詫びを云い、自首して出るつもりだったが、お仕置のことを考えると恐ろしくなった。その場になってみれんなまねをしそうに思えるので、あなたには済まないが自害をする、死骸はどうか御法どおりに処分してもらいたい。

――また、道灌山の下に「植茂」という植木屋があり、その隠居所におまさという召使がいます、これは雇人でなにも知らない人間ですから、まだそこにいるとしてもお構いなしにはからって下さいまし。そして、その部屋の机の中に金包みがございますが、それは父が遺してくれたものの残りで、決してうろんな金ではございません。もしそうしてもよいのなら、貧しい人たちへのお施米の足しにでもしていただければと存じます。

あなたにはずいぶんお手数をかけた。いちどおめにかかり、お詫びを申上げなければならないのに、こうして死ぬことをゆるしてもらいたい。もう一つ、最後のお願いがある。死骸がどういう処分を受けるかわからないが、処分するまえに、ぜひ腑分をしてくれるように頼む。