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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
神仏というものがあるのなら、このまま父の死を黙って見てはいられない筈です。あたしの寿命を縮めてもいい、あたしの命を分けてでも、どうかいま父を死なせないで下さい。おしのは咽び泣きながら、掻巻の中で合掌し、全身を固くして祈った。
明くる朝、――卵の黄身を入れた重湯を、ほんの二た口ほど啜った喜兵衛は、もし椿があったら見たい、と云った。
「紅い山椿があったら欲しい」喜兵衛はさぐるように娘を見た、「子供のじぶんから、私は山椿の花が好きだった、ながいこと見なかったので、もしあったら見たいと思うが、いまは咲く季節じゃあないだろうか」
「いいえ咲いているわ、すぐにいって買って来ましょう」
「買うのか」
「亀戸の寮のまわりにはあるけれど、こんな町なかではむりよ」おしのは微笑した、「買うと云っても安いんだからいいでしょ、ちょっといって来ます」
おしのは自分で花屋へゆき、山椿らしい枝ぶりのものを選んで買って来、す物もいちばん素朴な万古の壺にした。それを持っていって、眺めよいように置くと、喜兵衛は黙って、かなりながいあいだ、うっとりとしたような眼で見まもっていた。
「よくなかったかしら」