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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

そしていま、娘と同い年の少年と酒に酔ってふざけている。堪忍できないわ、あたし云ってやる、あの男が寝たら思う存分に云ってやるわ、聞いていてちょうだいね、お父つぁん、とおしのは心の中で云った。

奥の六帖から、口三味線と唄う声が聞えて来た。おしのがいないことなどは気にかかりもしないのだろう、唄の合間にはおそのの笑い声や、わざとらしい悲鳴が聞え、組打ちでもするような物音さえした。

「ああ、死んでしまいたい」おしのは両手で耳を塞いだ、「どうしてあたしを残して死んだの、お父つぁん、こんな恥ずかしいおもいをするくらいなら、いっそ死んでしまうほうがましだわ」

でも死ぬのならあたし一人じゃあない、おっ母さんもいっしょに伴れていってやる。あの世にいるお父つぁんのところへ伴れていって、あやまらせてやる、とおしのは思った。

「そうよ」とおしのは眼をあげた、「本当にそうしてやりたいわ、あたしが男なら、――男でなくってもあたしに勇気があったらそうしてやるわ、おっ母さんていう人は、生きていればいるだけ恥を重ねるばかりだもの、できたらそうするほうがいいと思うわ」

どのくらい時が経ったであろうか、ふと気がつくと、うしろの襖が静かにあいて、誰かがそっと近よって来た。