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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

第二の棺桶

神谷君、君はあまりに考えのない軽はずみをした。君が明智探偵を訪ねさえしなければ、こんなことは起こらなかったのだ。また、明智君が、昨夕の警告に従って、手を引きさえすれば、蘭子は無事でいられたのだ。君は取返しのつかぬ失策をしたのである。明智君にもよろしく伝えてくれたまえ。いずれ充分お礼はするからとね。

諸君の所謂『人間豹』より

第二の棺桶

棺桶配達事件は、被害者が帝都興行界の花形江川蘭子であった上に、殺人者が世人を戦慄せしめていた怪物人間豹とわかっているので、その騒ぎは一と通りでなかった。その日の夕刊は、あらゆる激情的な形容詞を濫費して、ほとんど社会面全ページをこの報道でうずめた。被害者蘭子の写真、明智小五郎の写真などが、見世物のようにデカデカと掲載せられた。

事件の中心となった神谷の家の騒ぎは申すまでもない。神谷家お出入りの人々が右往左往する。蘭子の親戚のもの、大都劇場の事務員が駈けつける、警察官がドカドカとやってくる。神谷青年はその警官の取調べを受けた上、父親には油をしぼられる。お母さんには泣かれる。とうとう病人のようになって一と間にとじこもってしまったが、やがて騒ぎも静まり、午後となり、夕方となり、気分が落ちついてくるに従って、恋人を失った悲痛、怨敵人間豹への憤怒が、今さらのように彼の胸をかきむしった。