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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
いくら気丈な女探偵だといっても、これは少し冒険すぎはしないだろうか。人間豹はまだ執念深く、その辺の闇に身を潜めていないものでもない。もし彼女のこの不用意な外出を、あいつに悟られでもしたら……
いや「したら」ではない。もうちゃんと悟られてしまったのだ。けだものは、果たしてそこに待ち伏せしていたのだ。
やがて車が音もなくすべり出すと、それを待ち構えてでもいたように、黒い風みたいなものが、サッと飛び出してきて、いきなり自動車の後部へしがみついたではないか。いうまでもない、あいつだ。遠ざかって行く自動車のうしろに、陰火のような二つの蛍火が見えていた。[注、当時の自動車は箱型で、後部にすがりつくことができた]
だが、いつまであんな恰好でしがみついていられるものだろう。やがて車は明るい街路へ出るに違いない。交番の前も通るに違いない。そうすれば、文代さんは害を受けないですむのだ。早く明るい大通りへ出ればよい。
ところが、これはまあどうしたことであろう。車は意地わるくも、まるでわざとのように、淋しい町、淋しい町とえらんで、しかもだんだん郊外の方へ出て行くではないか。