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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
車のうしろが大写しになって、人間豹の醜怪な顔が、闇の中で、ドス黒い舌を吐いて、ニタニタと笑っている。
もう旧市内を離れて、淋しい場末町だ。そのゴミゴミした町と町のあいだに、大きな森のようなものが見える。昔、その辺がまだ村であった時分の鎮守の森が、そのままちゃんと残っているのだ。
実に意外なことには、文代さんの自動車は、その鎮守の森の闇をめがけて、まっしぐらに突き進んで行くではないか。まるで、殺人鬼の注文にそっくりはまりでもしたように。
車がとまったのは、社殿の前の広っぱであった。杉や檜の大樹がまわりを取り囲んで、たださえ暗い闇夜の空を、一そう暗く覆い隠している。その身の毛もよだつ静寂の中へ、可哀そうな文代さんは、昔話にある人身御供みたいに、ほうり出されたのである。
はてな、こいつはあんまり話がうますぎやしないかな。
だが、情慾に燃えたけだものには、そんなことを考える余裕はなかった。恩田は一匹の巨大な猿の恰好で、地上に飛び降りると、いきなり客席のドアをひらいて、異様な唸り声を立てながら、車内へ躍り込んでいった。
クッションの隅には、美しい文代さんが、やっぱりうなだれたまま坐っている。