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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

裏の裏

彼はやにわに、闇の中を、石ころ道につまずきながら、飛ぶように駈け出した。市街を目ざして鉄砲玉みたいに走り出した。

広いコンクリートの橋を越すと、もうそこに人家があった。やがて、廃墟のような深夜の電車軌道。その四つ辻にポツンと公衆電話が建っている。彼はそのドアを引きちぎるようにして、ボックスにはいると、ポケットの小銭を探りながら、いきなり受話器をはずした。

裏の裏

一方明智探偵事務所では、明智が人間豹に変装して、自動車に文代さんの身代り人形を乗せて出発すると、事件依頼者の神谷青年も一と先ず自宅に引き上げて行ったので、あとには明智夫人の文代さんと助手の小林少年と女中の三人きりであった。

文代さんは小林少年に表と裏の戸締まりを厳重にするように命じておいて、自分は二階の寝室へとじこもり、内側から鍵をかけて万一の用心をしていた。ベッドの枕元の小卓には、たまをこめた拳銃さえ用意してあった。

異様に緊張した長い長い夜であった。主人の思い切った計略はうまく図に当たるであろうか。もしや失敗するようなことはないだろうか。恩田ばかりでなく、その父親までも一と晩のうちに捉えようなんて、あんまり慾ばってはいないかしら。