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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

運送屋というのは、つまり、僕の手下なんだがね。それからトラックでもって、運ぶ先は、さあ、どこだろうね、当ててみるがいい」

恩田はもう有頂天になって、しゃべりちらした。目的物を獲得した嬉しさと、獲得の手段のすばらしさに夢中になっていた。仇敵明智探偵が智恵をしぼって用意したカラクリを、すっかりそのまま逆に利用してやるのだ。明智の変装も、マネキン人形も、その木箱さえも。なんとまあ素敵な報復手段であろう。

文代さんは気絶するほど弱い女ではなかった。それだけに、この侮辱が一倍はげしく心を打った。なんともいえぬ嫌悪の情にガクガクと身内の震えるのをどうすることもできなかった。

けだものの体臭、けだものの呼吸、けだものの筋力。彼女は真実の豹を感じた。彼女の顔の上に猛獣の顔があった。らんらんと青光りする眼が、ヌメヌメした赤い唇が、そのあいだから覗いているするどい牙が、びっくりするほど大写しになって、一、二寸の距離に迫っていた。

彼女はその赤い唇が、トンネルみたいにパックリとひらくのを見た。すると、暗いトンネルの中から巨大な舌がペロリと現われた。ああ、その舌! 彼女はまざまざと見た。