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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

彼は思わず身構えをして、しばらく耳をすましていたが、電話とわかると、チェッと舌打ちして、そのまま歩き出そうとした。だが、やがて人間豹の醜い顔に狡猾な笑いが浮かんだ。燐光を放つ両眼が糸のように細くなって、赤い唇がニッとめくれ上がると、牙のように見える白い八重歯が、その隅からチラリとのぞいた。

彼はその異様な表情のまま廻れ右をして、ツカツカと書斎へはいって行った。そして、そこの卓上電話を握ると、いきなり受話器をはずして、けもののようにピクピク動く薄い耳たぶにあてがった。

(モシモシ、モシモシ、僕だよ、僕だよ。君は誰だい。小林君かい)

声といい、言葉使いといい、電話のぬしは明智小五郎に違いなかった。それを知ると、恩田の両眼は何か快い音楽でも聞くように、さらにさらに細められて行った。

(モシモシ。小林君じゃないのかい。急ぎの用事なんだ。何をグズグズしているんだい。それともそちらは明智事務所じゃないのですか)

明智探偵のイライラしている様子が眼に見えるようだ。

「モシモシ、そうですよ。こちらは明智事務所ですよ。しかし、今小林君はちょっとさしつかえがあるんです」