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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
「これだ、あまり手荒くしないように、貴重品だからね」
「おやおや、まるで棺桶みてえですね」
「人形箱だよ、大切な人形がはいっているんだ。さあ、早く運んでくれ」
二人の男が、木箱を持ち上げている隙に、恩田はソッと台所のドアをひらいて覗いてみた。少しも異状はない。小林少年も女中も、さいぜんと同じ姿でグッタリと眠っている。小林少年が抱いてきた、文代さんそっくりのマネキン人形は、胴体を二つに折り曲げて、調理台の下へ首を突っ込んでころがっている。
それを見届けておいて、彼は人形箱を運んで行く二人の男を監視しながら、門外へと出て行った。そこの闇にヘッドライトを消した一台のトラックがとまっている。荷物をのせてしまうと、二人の男は運転台についた。恩田は人形箱と一緒に無蓋の箱の中にうずくまった。エンジンが深夜の屋敷町にけたたましく響き渡ったかと思うと、この異様な誘拐自動車は、たちまち明智探偵事務所の門前を遠ざかって行った。
結局、何事もなかったのだ。警官たちは間に合わなかったのだ。ただ、ちょっと気になるのは、廊下をさまよい、トラックのまわりをうろついたという、例の怪しい影法師であったが、それもこうして車が走り出してしまえばなんの事もない。