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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

「猫の子一匹通りゃしねえ。ひどく陰気な町ですねえ。いくら夜中だといって、この淋しさはどうだ」

「おい、念のために、あのことを言っておこうじゃねえか」

一人の男が、何か意味ありげにささやく。

「こいつ、またはじめやがった。お前の気のせいだっていうのに、臆病な野郎じゃねえか」

「おいおい、何をボソボソ言ってるんだ。何かあったのか」

恩田がきめつけると、臆病者といわれた男が、あたりの闇をキョロキョロ見まわしながら、変なことを報告した。

「なんだか小さな影みたいなものが、トラックのまわりをウロウロしていやがった。まったく小っぽけなやつでね。小人島の影法師みてえな、なんだかこうゾーッとするような、いやな物でしたよ」

「親方、気にしちゃいけねえ。この野郎、今夜はどうかしているんだ。それよりも、早く荷物を運び出そうじゃありませんか」

この人夫体の二人は、前科者の運転手なのだが、大方何か犯罪がかったこととは知りながら、莫大な謝礼金に眼がくらんで、一夜かぎりの恩田の手下に雇われているのであった。

「ウン、早くしてくれ。荷物はこの廊下にあるんだ。少し重い代物だよ」

恩田は先に立って人形箱に近づいた。