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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

恒川氏はそんなことを言いながら、愛犬を玄関の柱につないで靴をぬいだ。

明智は恒川氏を階下に待たせておいて、二階の部屋部屋を見まわって、空しく降りてきたが、そのあいだに警部は例の第六感というやつを働かせて、すばやくも廊下の奥の台所へ忍びよっていた。ドアを細目にひらいて見ると、いる、いる、小林少年、女中さん、それにマネキン人形までが、変な恰好でころがっている。

「おい、君、ここだ、ここだ」

恒川氏の声に、明智も台所へはいってきた。

「おや、君、君、あすこにいるのは、奥さんじゃないか。奥さんは誘拐されやしなかったぜ」

彼は調理台の下へ首を突っ込んでいるマネキン人形を指さして、それを文代さんと思いこんでいる。

だが、明智はそれどころではなかった。倒れた小林少年の上にかがみこんで、一所懸命にその顔を見つめている。何事かを念じるように、瞬きもせず見つめている。

すると、明智の念力が通じたのか、少年の眼が細くひらかれた。長い睫毛に覆われた細眼と、明智の眼とが、お互いに探り合うように見かわされた。普通なれば、そんなに手間取るわけはない、一と眼でわかるはずであった。