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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

た様子といい、なんだかゾッと怖くなるほどであった。

「魔日っていうんでしょう、きっと。そとは寒いでしょうね。でも、邪魔がなくって、この方がいいわね」

弘子は恰好のよい唇をニッとひらいて、神谷の好きな八重歯を見せて甘えるように笑った。

すると、ちょうどその時、入口のボーイが客を迎える声がして、コツコツと靴の音をさせながら、一人の男がはいってきて、一ばん隅っこのシュロの鉢植えの蔭のボックスへ、人眼をさけるように腰をおろした。

神谷はその男が歩いているあいだに、風采や容貌を見てとることができたが、彼はまっ黒な背広を着た、ひどく痩せ型の、足の長い男で、その顔はトルコ人みたいにドス黒く、頬が痩せて鼻が高く、びっくりするほど大きな、何かの動物を連想させるような両眼が、普通の人よりはずっと鼻柱に近くせまって、ギラギラと光っていた。年配は三十歳ほどに見えた。

神谷はそれからまたしばらく、弘子と楽しい密語をささやきかわしたが、そのあいだも、シュロの葉蔭の客が、なんとなく気になって仕方がなかった。彼はこんな変てこな感じのする人間を、まだ見たことがなかった。

弘子も同じ心とみえ、話しながら、絶えずその方をジロジロと見ていたが、とうとう我慢ができなくなったように、ささやき声で訴えた。