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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

四方をテントで張りつめて、前の方にやっと客の顔が見えるだけの窓があいている。その窓から大きなロイド目がねをかけた白ひげのお爺さんが、天眼鏡片手にのぞいていた。

「へええ、いざりの乞食ですって? 存じませんな。この辺には、そういう乞食を見かけたことがありませんよ」

「ところが、いま僕はそいつを見たんだよ。その筋のお尋ねものなんだ。ちょっとの隙に逃げられてしまった。もしやそんな乞食が、君の店の前を走り過ぎはしなかったかね」

「存じませんな。わしはつい今しがたまで客がありましてな。人相の方に夢中になっておりましたのでね」

「そうか。いや、ありがとう」

それを最後に、明智たちは一応捜索を断念して引き上げるほかはなかった。恒川氏は警視庁に帰って浅草公園包囲の手配を講ずるために急いでいた。人々は自動車の方へ急ぎ足に引っ返して行った。

「ウフフ、もうよさそうだよ、とうとう諦めて帰ってしまった」

易断のテント張りの中で、白ひげの易者が妙な独りごとをした。すると、その声に応じて、テーブルのような台の下から、ゴソゴソ這い出したやつがある。いざり乞食だ。

乞食はいざりでもなんでもない。