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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
男はきたないハッピ姿の人夫のような風体であった。破れたお釜帽子の鍔が鼻の頭まで垂れ下がって、その下から五分も伸びた顔じゅうの無精ひげが黒々とのぞいていた。それが女房とも見える「よいとまけ」女をおぶって、人波をかき分けながら急ぎ足に歩いて行く。しかも背中の女は気を失ってグッタリとなっているのだ。女の両手が男の胸のあたりにブランブランと揺れているのだ。これが道行く人の注意を惹かぬわけはなかった。何百という顔が一斉に彼のうしろ姿にそそがれた。
だが、男はそんなことをまるで気にもとめない様子で、ドンドン歩いて行った。眼の前に六区の交番があって、色の白い美男のおまわりさんが立ち番をしている。男はずば抜けた機智をもって、そのおまわりさんの真正面に立ち止まって、声をかけた。
「女房のやつがテンカンを起こしゃあがって、しようがねえんです。どっかお医者さんをお世話願えませんでしょうか」
おまわりさんはそれを聞くと、迷惑そうな顔をした。
「医者って、かかりつけの医者はないのか。お前どこのもんだ」
「へえ、三河島のもんですが」
「三河島? フン、そうか。この辺に知合いもないんだな。