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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
彼女はほとんど夢心地のうちに着物をはぎとられ、その上から温かい熊の毛皮をスッポリとかぶせられてしまった。
毛皮の腹部を切りひらいて、シャツのように隠しボタンがつけてあるので、それを着てボタンをかけてしまうと、どこにも継ぎ目のない完全な生きた熊が出来上がる。人間の足と熊の後足とはむろん形が一致しないのだけれど、その部分に巧妙な細工がほどこしてあって、そとから見たところでは、少し後足が太い感じがするくらいで、そっくり本物の熊である。
「さあ、お熊さん、あんよだよ。あんよをするんだよ」
恩田は猫なで声で言いながら、いつの間に用意していたのか、猛獣使いの短い鞭を取り出すと、恐ろしい勢いで、可哀そうな熊のお尻を叩きはじめた。しなやかな鞭が空気を切って、パン、パンと部屋じゅうに鳴りわたった。
熊の中の文代さんは、むろん這い出す気持などなかったけれど、じっとしていると、恩田が両手で腰を持ち上げて、グングン押すものだから、その惰性で二た足三足は這うことになる。それを何度も何度も繰り返しているうちに、この奇妙な人間熊は、とうとう部屋を一周してしまったのであった。
実におかしいとも恐ろしいとも名状のできない光景であった。