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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
「ウン、じき近くだよ。ちょっと君を驚かせることがあるんだ。むろん、嬉しくって驚くことなんだよ」
「そう、なんでしょうか。思わせぶりね」
「ウン、ウン、思わせぶりさ。フフフフフ、君、きっと驚くぜ」
蘭子は、やっと男の声がいつもと違っているのに気づいた。
「あら、あなた、風引いたの。声が変よ」
「ウン、春の風だよ。陽気があんまりいいんで、風を引いちゃった」
「あなた、だあれ?……神谷さんなんでしょうね」
「ハハハハハ、何を変なこといってるんだ。きまってるじゃないか。それとも誰か、ほかにも迎えにくる人があったのかい」
「そのお面、取ってくださらない。気味がわるいわ、ニヤニヤ笑っていて」
「ウン、これを取るのかい。取ってもいいよ。だが、ちょっと待ちたまえ。君に見せるものがあるんだ。ほら、これ、君に上げるよ」
男は言いながら、ポケットから小さなサックを取り出して、パチンと蓋をひらいて蘭子の前にさし出した。薄暗い豆電燈にも、キラキラと五色に光る、一カラットほどのダイヤモンドの指環だ。
「まあ、美しい。これ、あたしにくれる?」
レビュー・ガールは贅沢に慣れていなかったので、数万円はするであろうこの高価な贈り物に、すっかり昂奮してしまった。