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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
議論は容易に尽きなかったが、話せば話すほど、七人の者はだんだん、人間豹がまだこの劇場内に潜んでいるという考えに、支配されて行った。
ほかのどんな建物より、空っぽになった劇場ほど、異様に物淋しいものはない。見物席の何千という椅子に、たった一人も人間が坐っていない有様を考えただけでも、何かしらゾッとする感じであった。まして深夜、あんな怪事の起こったあと、死に絶えたような大建築物の中に、生きているものといっては、たった七人……と思うと、さすが力自慢の兄いたちも、決してよい気持はしなかった。
「それはそうと、君、あいつがまだ小屋の中にいるとすると、蘭子はどうしたんだろう」
「むろん、一緒にいるだろうじゃねえか」
「生きてかい?」
誰も答えるものはなかった。人々はギョッとしたようにだまり込んで、不安な眼を見かわすばかりであった。
そうだ、けだものは、あの美しい女優を殺さなかったとは言えないのだ。どこかその辺の暗闇の中に、血みどろになった蘭子の死骸がころがっていないとは限らないのだ。
「アーアー、いやだいやだ。おい、みんな、そんな話は止しにしようじゃねえか」
誰かがやけに大きな声を出した。