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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

彼は蒲団の中で、むやみに寝返りをうちながら、いつまでも甲斐なき物思いにふけった。

やがて、疲労のあまり、ついウトウトとしかけると、そこには恐ろしい悪夢が待ち受けていた。彼の眼の前に、白い蘭子の肉体と、骨ばった人間豹のからだとが、あらゆる姿態をつくして踊り狂っていた。そして、最後には、夢の世界が鮮かな血潮の色に塗りつぶされた。彼はまっ赤な夢を見たのだ。まっ赤な殺人の夢を見たのだ。

コトコト、コトコト、いつまでもつづく妙な物音が、ふと彼の眼をさました。風かしら、いや、風ではない。誰かが庭から窓の雨戸を叩いているのだ。

「誰だっ」

どなりつけても、答えはなくて、音はやっぱりつづいている。

神谷は寝間着のままはね起きて、手早く窓の障子と雨戸とをひらいてみた。まさか、そんなものがいようとは、夢にも考えていなかった。何かが軒にぶら下がっていて、それが雨戸を叩くのではないかと調べてみるために窓をあけたのだ。

だが、雨戸をくって、ヒョイとそとを覗くと、彼は驚きのあまり、思わず蒲団の上に飛びしさった。

そこには、降りそそぐ月光を背に受けて、思いもよらぬ恐ろしい物の姿が、じっとこちらをうかがっていたのだ。