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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
つや子は急に、ぎっしり両手で伸子の頸にしがみついた。そして、息もせず、体じゅうを強ばらせ、足を畳に踏張って抵抗した。肩に顔を伏せているので見えはしないが、いずれ真赤に汗ばんで、わっと泣き出す一歩手前に相違ない。伸子は動くのをやめた。
「――じゃ、おやめ! 今日はおあずけ」
「この子は妙な子でしてね、つい去年あたりまで豆腐はこわがる、真綿はこわがる、親父の私まで厭がったので閉口しましたよ」
すると、つや子が、皆に背を向けて、伸子に抱かれたまましさいらしく、
「キャンムシも」
と小声でつけ足した。初めて心からの大笑いになった。キャンムシは、神主のつや子語であった。
十時頃女中が、
「お床はどう致したらよろしゅうございましょう」
と訊きに来た。
「さあ……」
多計代は伸子を見た。
「お前の部屋でいいんだろう」
「いいわ」
「じゃあ、いつものように――」
「あの、おかけものや何かはどれに致しますのでしょうか」
多計代は、彼女の場所から動かず、当然それは伸子のすべきことだという風に答えた。
「さあ――何かあるだろう……伸ちゃん、お前行って見てやらないじゃあ判りませんよ」
伸子は、黙って女中の先に立ち納戸に行った。