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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

四

旅行に出てから、彼女はそんな種類の話をする機会もあいても、佃に会うまでは持たなかった。佃の専門の研究について種々新しい話を聞くのは面白いのだが――伸子は考えた。彼はなぜああ特別な印象をひとに与えるのであろう。彼は、まるで流行に反抗でもするように、猶太人の爺がかぶりそうな古びた山高帽を放さない。その山高のような特別さ、淋しいような満ち足りていないような何かが伸子の心をひくのであった。彼がもう若くないのに貧乏しつつそのような研究をしているらしいのが同情を誘うのであろうか。或は、自分が生活力の充実を感じて活々した女だから、逆に暗い彼の存在に興味を覚えるだけなのであろうか。――伸子は、くるりと長椅子の上で腹這いになり考えつづけた。

四

二三日おいて、佃は職業紹介所を調べた報告をもたらして来た。

南波武二の消息は何処でも得られなかった。佐々は、更に佃の友人を頼って、中部の主な都会から発行される日本字新聞に同じような広告を出すことを頼んだ。佃は、屡々その打ち合せにホテルへ出入りした。また、伸子がふと話したC大学の講義目録を持って来て貸したりした。

佃がその印刷物を持って訪ねて来た晩、伸子は父と、客があって階下の広間にいた。