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のぶこ

伸子

宮本 百合子

「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页

青空文庫

佐々は、天性面倒な論議や衝突は嫌いであった。どうせ縁がある以上、円滑に納めて行く意向だ。それ故、穏やかな常識的な言葉しか洩さない。――多計代は、もちろん結局妥協するしかないのを知っているが、夫――佐々の微温的態度もはがゆし、佃のさっくりしない心持も不快、自分が本気になれない焦立たしさも蟠っていて、ともすると小競合が、佃との間に再燃しそうになった。

「多計代もこの機会に、将来円満にやって行くようにしたいと云いますし、どうか私もそうしたいと思うので」

「お母様が、そう思いかえして下されば幸いです」

「私は、何も自分が悪いとは思っていないんですから、思いかえしたわけではありませんよ」

多計代は、腹立たしげに云うのであった。

「あなたがお父さんといらっしゃりたいと云うから、それなら、何とかお話があって然るべきだと思って来て頂いたわけです」

佐々が、双方をとりなすように言葉を挾んだ。

「まあ、互に家族となった以上、できるだけ誤解のないように、平和に暮さなくちゃならんのだから――論判してはきりがない」

丁度、焦点の合わないレンズで映す活動写真を見ているような切なさであった。