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のぶこ
伸子
宮本 百合子
「改造」1924(大正13)年9月号~1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 页
このような服装のできる、そして専門は露西亜文学の、独りで一軒の家の主人となって自由に暮していられる女性の生活が、伸子にはひどく悠々独立的なものに想像された。
五時頃、佐保子が、
「伸子さん、ゆっくりできるんでしょう」
と訊いた。
「ええ、今日はすっかり楽しむ積りなの」
「では、皆で自笑軒へでも行きましょう、父さんの都合を一寸訊いて見て」
先へ出かけることになり、三人は、昔風な植木屋などの未だ残っている夕暮の田端の通りを、茶料理までぶらぶら歩いた。途中、ある寺を通り抜けた。素子が、
「ここを雪の朝通ったことがありますよ、あなたのところへ泊った朝早く」
と辺りを見まわした。
「そうそう、いい雪見をしたって、――五時頃じゃなかったの? 私びっくりしましたよ、あまり早くかえってしまうんだもの」
自笑軒で、奥の茶室に通された。伸子は地震後は初めてであった。壁などところどころ痛んではいたが、隅に貼りまぜの小屏風などを置いた部屋の様子は悪くなかった。三十分ほど遅れて、楢崎も来た。
「もう暗くて見えないかな、多分この庭の奥に何か祭ってあった筈だが――」
大観(多分)が月の好い晩ここの家で酔い、興にのって低い白土塀に墨絵の竹を描いたとかいう庭が彼方にあった。