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いだいなるゆめ
偉大なる夢
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1943(昭和18)年11月~1944(昭和19)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,988 字 · 234 页
犯人は逃げ出す暇がなかった。建物の中のどこかに潜んでいるに違いない。人々はそう信じていた。したがって彼等の狼狽はいつまでも静まらなかった。
憲兵を除いて最も冷静であったのは南工学博士である。彼はうろたえ廻る人々を離れて、もう一度被害者の室へ引返していた。そして偉大なる老科学者の死体の側にひざまずいて、仔細にその負傷の箇所を調べた。
ややあって、開け放った扉の外にあわただしい足音がして、新一青年が飛び込んで来た。真青な顔が涙に汚れている。
「オオ、南さんここでしたか。盗まれました。例の折鞄の隠し場所へ行って見たのですが。ありません。無くなっているのです。スパイは父を殺した上、あの大切なノートまで奪って行ったのです」
新一は絶望の余り泣き声になっていた。
だが、この重大な報告に接しても、南工学博士は返事さえしなかった。それどころではないというように、被害者の身体に覆いかぶさって、しきりと何かやっている。
「南さん。どうしたのです」
新一もその意味に気づいたのか、びっくりするような叫び声を立てて、博士の側へ寄って行った。
南博士はやっと顔を上げて新一を見た。