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かちうんまけうん

勝ち運負け運

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,262 字 · 243 页

青空文庫

お親しい間柄でも則を越えたくありません」

と謹厳の程度を示した。

「好いお心掛けね」

「これでも紳士の積りです」

「序にもう一歩進んで戴きますわ」

「斯うですか?」

「あら、足で進むんじゃないのよ」

と豊子さんは笑った。

「ハッハヽヽ」

「お手紙に書いて悪いようなことはお口で仰有っても悪いのよ」

「…………」

「お隣り同志でも則を越えたくありませんわ」

「はあ」

「律子は女学生よ、まだ」

「はあ」

「お気をつけ下さい」

「はあ」

「それから、私、あなたに勉強して下さいってお願い申上げた覚えはありませんよ」

「…………」

「あれはもうあれで済んでいますわ」

「何う済んでいるんですか?」

「私、あなたがあなたなら、私も私って、ハッキリお断り申上げた積りよ」

「はゝあ」

と答えて、僕はヨロ/\した。床の間がグル/\廻った。気がつくと、豊子さんはもういなかった。

「おい、何うした?」

と菊太郎君が肩を捉えてくれた。本当に眩暈がしたのだった。

「あゝ/\」

「しっかりし給えよ」

「うむ。しかし何うしてくれる?」

「まあ/\」

「まあ/\何だい?」

「大舟に乗った気でい給え」

「まだ床の間が動いている。迚も当てにならない大舟だ」