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てんのう

天皇

蜷川 新

誰が日本民族の主人であるか

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 136,036 字 · 269 页

青空文庫

しかるに、薩長出身や、公卿岩倉らは、この大勢にさからって、専制主義国の方向に、日本を引きずっていったのである。そういう証拠は、いくらでもある。大久保利通の遺した手紙のごときは、そのもっとも有力な証拠である。その手紙には、今のことばに訳すると、つぎのように書いてある。(註二)

「公議府で論じていることは、むだなことが多く、まだ今日の国情には合わないので、一応、とりやめることに、内部ではきまりました。大事件の件は、追ってお運びになられますけれども、まだ朝廷にはしっかりした方針がたてられておりません。それで、一旦は、朝廷の基礎もほとんどくずれて、どうにも手におえない情勢になってまいりました。」

伊藤や大久保らの薩長人は、幕末には勝手なことを主張し、運動し、社会の秩序をやぶっていた人であったが、ひとたび権力者の一人になってからは、自己の権力維持にのみ没頭し、他の言論主張にたいしては、それらの人びとを破壊者として、その弾圧を、仲間とともにとなえ、かつ実行した人である。天皇が神明に誓われた五箇条の誓文などは、彼らにとっては、一片の反古紙にしかすぎなかったのである。