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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

高さ三尺、径二尺程の、小さな張りぼての岩は、今や三笠探偵の足もとにくッつく程接近していた。そして、オオ、実に驚くべきことには、そのてっぺんの貼紙を押し破って、ニョッキリと、人間の腕が現われたではないか。しかも、その手にはドキドキ光る小型の短刀を握りしめているのだ。

真蒼に塗った泥絵具の岩から白い手が生えたのだ。そして岩が短刀を振り上げて、今や将に、我が三笠老探偵に危害を加えようとしているのだ。

危い、危い。だが、如何な名探偵も、無生の岩石が、殺人罪を犯そうなどとは知る由もなく、ただ前方の二兇漢を見つめて、抜目なくピストルを構えているばかりだ。

キラリ、短刀が閃めいたかと思うと、この張りぼての岩には目がついているのか、狙いもあやまたず、老探偵の腰のあたりを、したたか刺し通した。

流石の老武者も、この不意打ちには、アッと悲鳴を立てないではいられなかった。痛手に思わず取落すピストル。

「ソレッ!」

青眼鏡が烈しいかけ声を発した。今か今かと、そればかりを待構えていたのだ。

すると、腕力優れた偽探偵が、いきなり警官の虚をついて、握られた腕を振り離すと、竹藪に倒れかかっていた例の槍を拾うが早いか、一方の柱にとりつけられた唯一の電燈めがけて、発止とばかり叩きつけた。