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ようちゅう
妖虫
江戸川 乱歩
「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页
悪魔の正体
を巻いて、うしろ手に縛られている。
三笠探偵は手早く、その縛めと猿轡を解いてやった。
猿轡の下からは、真赤な厚ぼったい唇の、大きな口が現われた。その口が、ギャッと開いたかと思うと、何とも形容の出来ない、異様な嗄れ声が響き渡った。
哀れな片輪者は子供みたいに泣きわめきながら、一座の人々を見廻していたが、やがて、何を発見したのか、恐ろしい叫び声を立てながら、矢庭にトランクを躍り出すと、室の一方に向って走って行った。短い足で、チョコチョコと走って行った。
彼は何を発見したのか。外でもない。一座の内にその仲間の顔を見つけ出したのだ。そして、低能者の悲しさに、何を顧慮する暇もなく、懐しきその者の膝へと飛びついて行ったのだ。
悪魔の正体
一寸法師の小娘が、駈けて行って抱きついたのは、……オヤ、これはどうしたのだ。何かの間違いではないのか。……謹厳そのものの如き家庭教師殿村夫人の膝であった。
「マア、この子は何をするんです。私お前なんか見たこともありませんよ」
殿村夫人が狼狽して叫び声を立てた。
「オッ母ちゃん! 早くお逃げよ。サア、早く逃げようよ」
一寸法師が、相川青年には聞き覚えのある、例の浪花節語りみたいな、不気味な嗄れ声で泣き叫びながら、殿村夫人の袂を引っぱって離そうともせぬ。