轻松读懂日语经典作品
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ようちゅう
妖虫
江戸川 乱歩
「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页
ビルディングと蠍
我々は順序として、先ず丸の内の椿事について語らなければならぬ。
初春の午前八時、丸の内オフィス街はまだ夜明けのヒッソリとした感じであった。片側には八階のSビルディング、片側には六階のYビルディング、空を隠してそそり立つ白堊の断崖にはさまれた深い谷底に、電車線路のない坦々たるアスファルト道路が、白々と続いていた。
その妙にうそ淋しい、ガランとしたアスファルト道を、恐らく当日第一の出勤者であろう一人の勤勉らしい事務員がSビルディングを目ざして、コツコツと靴音を谺させながら歩いていた。
時たま、眠そうな顔をした運転手の空自動車が、スーッと通り過ぎて行く外には、殆んど人通りはなかった。
起きているのは、ビルディングの地階に住んでいる管理人や小使の家族丈けで、彼等は入口の扉を開き、朝の掃除を済ませて、朝食の膳に向っている頃であった。
事務員は半町程先から、Sビルディングの入口の前に横わっている、一種異様の物体に気づいていた。
酔っぱらいが寝ているのかしら。それとも行路病者かしら。だが、変だな。あいつ真赤な着物を着ているぜ。
堂々空を圧する白堊の建築物と、美しく掃き清められたペーブメントと、凡て直線的な均整の中に、これは又ひどく大時代な、赤い着物を着た酔っぱらいなんて、何となく気違いめいた対照であった。