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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

あとで分ったのだが、大川で水上署員が目撃したのは女の右腕、木挽町で犬が啣えたのは同じ様な女の左腕であった。

それから少したって、今度は銀座裏のとある横町に、いつとはなく黒山の人だかりが出来ていた。狭い町を通行止めにして、ギッシリ詰った群集が、一様に仰向けになって、ドンヨリと曇った空を見上げていた。

「一体なんですい。飛行機ですかい」

新しく加わった一人が前の男に訊ねている。

「イヤ、そうじゃねえんで。飛行機なんかで、今時こんな人だかりが出来るもんですか。ごらんなさい。ホラ、もっと下だ。あの煙突のてっぺんだ」

云われて見ると、そこには、旭湯と書いた銭湯の煙突が聳えているのだが、なる程、そのてっぺんに、何だか変なものが引っかかっている。

「しばらく見つめていないと分らない。じっと見ててごらんなさい」

白いものが二本、斜に煙突の口から、空に向って突出している、オヤ、変だぞ。あの先で折曲っている恰好は、確かに、確かに、

「ワア、足だ。人間の足だ。しかも裸体の真白な足が二本、……」

その人は思わず大きな声を立てないではいられなかった。

「どうしたんでしょう。まさかああして煙突掃除をしている訳でもありますまい。