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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

悪魔がこの餌食のうちひしがれた艶めかしさを見たならば、どの様に狂喜したことであろう。

三笠老探偵は、眼鏡の奥の細めた目で、いつまでも美しい珠子を目守っている。目守りながら、なぜか、彼の鬚に隠れた唇が、ニッと三日月型に微笑しているかに感じられた。この真剣な場合に、彼は何を笑っているのだ。稀代の犯罪者にぶッつかった嬉しさにか、保護を託された娘の美しさにか、それとも、それとも……

「だが、御子息の守さんは、どうなすった。さい前一足先にわしの家を出られたのだが、一刻も早く吉報を齎すのだとか云って」

やがて、三笠氏は、ふと気づいた様に、その辺を見廻しながら訊ねた。

それを聞くと、操一氏の方でびっくりしてしまった。蠍騒ぎの昂奮から、つい守のことを訊ねるのがあと廻しになっていたが、守は三笠探偵と一緒の車で帰ったものとばかり思い込んでいたのに。

「イイエ、守はまだ帰りません。本当にあなたより先に出たのですか」

「そうですよ。待たせてある車で帰ると云って、非常に急いでおられたのだが、ハテナ」

老探偵は、じっと操一氏を見つめて、不安らしく小首を傾けた。

「ほかに寄り道をする筈はないし、車に故障が起ったとしても、こんなに遅れることはない。