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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

だが、神様はそれ程寛大ではなかった。かかる汚辱をそのままお見逃しにはならなかった。

丁度その時、運転台から、叱りつける様な慌しい咳払いの声が聞えた。仲間内には意味の通ずる警告の合図だ。

悪魔はギョッとして顔を上げた。すると、その醜く歪んだ顔を、ガラス越しに、まぶしい後光が照らしつけた。イヤ、この場合、光を恐れる悪魔に取っては、神様の後光とも見える、立並ぶ街燈の電光であった。車はいつしか、又もや明るい市街にさしかかっていたのだ。夜更けとは云えチラホラ人通りがないではない。気がつくと、向うには交番の赤い電燈さえ見えている。

偽探偵の悪魔は、珠子の唇を盗むどころか、今は、その唇を蓋することを考えなければならなかった。こんな町中で、彼女に叫び出されでもしては一大事だ。

だが流石に兇賊、慌てふためきながらも、手早くポケットから毛の手袋を取り出し、それを丸めて珠子の口へグイグイと押込み、上から大型ハンカチでしばりつけて、早速の猿轡をはめてしまった。

「チッ、なんてえドジな奴らだ。もうちっとばかし暗い町を走ってくれたって、よさそうなもんじゃねえか」

偽探偵がいまいまし相に舌打ちすると、運転手の男は、振向きもしないで、ぶっきら棒に答えた。