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きょうふおう

恐怖王

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页

青空文庫

のデモンストレーションをやって置いて、改めて逃げ出そうというのだ。

ゴリラのことだ、力も足も人間の及ぶ所ではない。彼は大江の一瞬の放心を見すまして、矢庭に走り出した。その早いこと、足ばかりでなく、両手も使って、猿の走り方で走るかと思われた程だ。

「畜生、待てッ」

大江はこの怪獣に対して、不思議な憤りを感じないではいられなかった。何を顧慮する余裕もなく、ただ無性に癪に触った。彼も駈けっこでは人に劣らぬ自信がある。いきなりゴリラを追って走り出した。見渡す限り人なき砂浜を、異形のけだものと人間との死にもの狂いの競走だ。

ゴリラは二三丁走ると、とある砂丘をかけ上って、町の方へ曲った。林や原っぱを中にはさんで、ヒッソリとした大邸宅が建ち並んでいる淋しい場所だ。

賊はそれらの建物の高い生垣やコンクリート塀の間を縫って、或は右に或は左に、クルクルと逃げ廻ったが、どう間違ったのか、塀と塀とで出来た袋小路へ駈け込んでしまった。両側とも丈余のコンクリート塀だ。突き当りは高い石垣になって、逃げ込む隙間はない。

「しめた。とうとう捉えたぞ」

大江蘭堂は勇躍して敵に迫った。もう十間だ。