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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
と、出会頭に、ドアが開いて、一人の洋装婦人が顔を出した。
「マア、大江先生!」
婦人がびっくりして叫んだ。見ると彼の熱心な愛読者として知合っている喜多川未亡人夏子であった。
「ヤ、喜多川さんでしたか。僕、一寸ここの御主人に逢い度いのですが」
蘭堂がせき込んで云うと、
「主人って、ここわたくしのうちですのよ」
若い未亡人が、にこやかに答えた。
蘭堂は彼女に逢ってもいたし、彼女から手紙も貰って住所は知っていたが、一度も訪ねたことがなかったので、この堂々たる邸宅を見て、一寸驚かぬ訳には行かなかった。
「マア、お入り下さいませ。今出掛けようとしていたのですけど、構いませんわ。サア、お入り下さいませ。本当によくいらしって下さいましたわね」
「イヤ、そうしてはいられないのです。裏庭を見せて頂き度いのです。それから、書生さんか何か男の人は居ないでしょうか」
「イイエ、あいにく書生は居りませんが、裏庭って、裏庭がどうかしましたの」
若い未亡人は、この探偵作家気でも違ったのではあるまいかと、びっくり仰天した表情だ。
「兎も角裏庭を見せて下さい。訳はあとでお話しします」
と云い捨てて、彼は柴折戸をあけて、建物の裏手へ駈け出して行ったが、やがて、失望の体で、まだ入口に佇んでいる夏子の所へ帰って来た。