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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
あれは殺されたのですか」
伯爵夫人が、もう泣き声になって、わめき立てた。
「イヤ、僕もすっかりは知らないのです。ただ……」
「ただ、どうだとおっしゃるのです」
「ただ、ある所で京子さんの右の腕を見たんです。確に見覚のある、お嬢さんの手首を見たんです。肘の所から切落された腕丈けを」
「マア!」
と叫んだ切り、夫人はあとを云う力もなくグッタリと椅子に倒れて、顔を押えてしまった。
「それはどこです。まさか出鱈目じゃないでしょうね」
伯爵も上ずった声である。
「僕の思違いであってくれればいいがと、心も空にお邸へかけつけたのです。併し、この血の様子ではあれはやっぱりそうなんだ。京子さんは『恐怖王』にやられたんだ」
「エ、エ、君は今何と云ったのです。誰にやられたんです」
「恐怖王。御存知でしょう。今世間で騒いでいる殺人鬼恐怖王です。そのお嬢さんの腕には『恐怖王』と入墨がしてあったのです」
その途端、「クウ」という様な奇妙な声がしたかと思うと、伯爵夫人の身体が、バッタリ椅子からくずれ落た。余りの驚きに気を失ったのだ。
そこで女中や書生を呼ぶやら、気つけの洋酒を呑ませるやら、大騒ぎになったが、夫人は間もなく意識を恢復して、やっぱり怖い話を聞きたがった。