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きょうふおう
恐怖王
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年6月~7月、9月~10月、1932(昭和7)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,038 字 · 133 页
賊自身がお嬢さんの声色を使ったのです。それについて思い当ることがありますよ。
恐怖王は以前布引照子という娘さんの死骸を棺のまま盗み出したことがあります。そして、その死骸に振袖を着せて婚礼の真似事をさせたのですが、照子さんのお父さんが夜、自動車で外出した時、すれ違った車の窓から死んだ筈の照子さんが顔を出して、生前の通りの声で『お父さま』と声をかけたことがあります。今考えると、あれがやっぱり上手な声色だったのです。ひょっとしたら賊は腹話術というあの手品師の秘術を心得ているのかも知れません」
大江蘭堂は喋りながら、部屋の中をグルグル歩き廻って、そこに置いてある机や鏡台や、その他の家具を眺めたり指で触ったりして調べていたが、最後にピアノの前に立止ると、その蓋を開いて、
「京子さんの美しい声がもう一度聞けるかしら」
と独ごちながら、いたずらの様に、白い鍵盤をポンと叩いて見た。すると、ギーンという様な、少しも余韻のない、変てこな音が聞えた。
「オヤ、どうしたのだ」
もう一度違う鍵盤を叩くと、やっぱりギーンだ。
「ピアノなんか叩いている場合じゃない。大江さん、早速このことを警察に知らせなければ」