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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

……余りにもまだ何も知らぬ頑是ない者にござりますれば」

こういっているのは、敵方の将だった。それは、三木城の家老、後藤将監基国にちがいない。官兵衛孝高が昵懇のものといえば、去年の晩秋のころ、秀吉の使いとして、降伏の勧告に赴いたとき、親しく城中で会見したことがあるという――その後藤将監以外に、知っているものはないはずである。

「やあ、それへ、お連れ召されたか。どれどれ、お会い申そう。……御家来、背から下ろして、その和子をこれへ」

やさしく麾いているのは、官兵衛孝高である。将監の従者は、主人のうしろからおそるおそる進んで、背に紐で十文字に負って来た幼い者を解いて下ろした。

「お幾歳じゃ」

「お八ツにおなり遊ばします」

日頃から傅役として侍いていた郎党であろう。解いた紐で眼の涙を拭きながら、答えると、辞儀をして、うしろへ退った。

「お名は」

こんどは、父なる人の将監が答えて、

「巌之助といいます。母もすでに亡し……父もやがて。――官兵衛どの、切に、行く末よろしくご養育を」

「お案じあるな。それがしもまた子をもつ父。あなたの父としてのお気持はよう分る。かならずそれがしの手にお育て申して、成人の後は、後藤の家名を絶やさすまい」