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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
06 第六分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页
父と父
お使いに参りました。筑前守秀吉の代人として。――やあ、方々には、おそろいでお迎え、恐縮です」
と、にこやかに挨拶する容子、いかにも磊落で、しかも何の衒いも見えなかった。
父と父
敵中に使いした官兵衛の印象は、案外、敵に好感をもたれた。
君も武士、我も武士、もののふの慣いにこそ――と、勝敗の立場は度外して、心をもって心に接して行ったからであろう。
けれど、これだけで、彼の使命とする――開城降伏の勧告――を敵がうけ容れるわけではない。
燈火もない城中の一室で、後藤将監と会見、半刻ほどの後、官兵衛から、
「では、お答えを待つ」
と、席を立つと、
「いずれ、主人長治や諸将とも評議のうえ、御返辞つかまつる」
と、将監も立った。
こうして、会見当夜のもようでは存外、この交渉は、成立を見るかと思われたが、以来、五日経ち七日経ち十日経っても、城方からの返辞は音沙汰もなく過ぎた。
冬は、十二月に入り、とうとう対陣のまま第三年の正月を迎えてしまった。
尠なくも、寄手方たる平井山の陣営では、餅もつき、将士は少しずつの酒も頒けてのんだが、
「城方では」
と、敵ながら、この正月を、一体どうして露命を繋いでいるやら、何を食って生きているやらと――偲びやらずにいられなかった。