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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

敵にのみ気をとられていた毛利勢は、繋綱を切って、友軍の火の船を、まず先に避けねばならないことを忘れていたのである。

(よし引き揚げろ)

燃えさかる数艘の巨火へ、さらにさんざん矢や小銃をうち浴びせて、九鬼船隊はすばやく淡の輪方面へ逸走した。――毛利方の水軍は、してやられたりと憤って、

(多寡のしれた伊勢や熊野の漁夫兵、大国毛利の水軍の面目にかけても揉み潰せ)

と、残余の大船小舟をととのえて、堂々たる船陣をつくり、淡の輪の海上へ追いかけて行った。

物見の舟を放って、とつこうつ敵船をさぐっているうちに夜があけた。朝霧のあいだに双方の石火矢や銃火がかわされ出した。すると、思いもうけぬ方から霧を破って、またべつな一船隊が毛利方へ迫撃して来た。その旗艦らしい一艘には、あきらかに滝川左近将監の旗じるしが望まれた。何ぞ知らん伏勢があったのである。

九鬼右馬允の乗っている大船には、熊野権現の大幟と日の丸がひるがえっていた。名づけて日本丸とよぶそれは、胴の間七間縦十数間という熊野船だった。

荒浪の中を乗りまわし乗りまわし、鯨のように日本丸は暴れまわる。近々と寄せては、敵船へ松明を投げこみ、退いては、大鉄砲をうちこむのだった。