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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
06 第六分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页
ともあれ、五ヵ年の長い間、それを黙って視ておられた公も公なれば、甘えていた佐久間も佐久間。われらも、顧みて、日常に誡めねばなりますまい」
こんな程度に、当らず障らずの批判はしていた。
けれど、実をいえば、蘭丸は心のうちで、
「あの御折檻状が、佐久間父子へ下るものでよかった。……ああ心配な」
と、人知れず、ほっとしたり、なお安んじきれないものを、胸の奥に残して、頻りと心を労っていたのである。
それは、彼自身の問題ではなかったが、自分以上なものの身に関わることだった。
――と、いうのは、蘭丸の老母――森三左衛門可成の後家の妙光尼と、本願寺方の謀将鈴木重行とは、かねがね信長にはごく内密で文通など交わしていた。
十一ヵ年、信長に抗戦した本願寺陣営には、実に、鈴木重行という稀代な謀将がひそんでいたのである。重行は、蘭丸の母の妙光尼が、後家となって後は、ひたむきに仏門を慕い、信仰のこととなれば、何ものもない女性であると知ってから、法話や仏縁を頼って、その人にいつか昵懇をむすんでいた。
そして、蘭丸の母から、安土の動静を、それとなく、たえず探り取っては、本願寺方の作戦に利して来たのである。