轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

急に調えた黒鹿毛の鞍も古びて佗しげな背にゆられながら、蹴上までかかると、思い出したように、彼は手綱をとめて、

「熊太郎」

と、馬の口輪をのぞき下ろした。

「――云いわすれたことがある。一筆ここで認めるゆえ、ちょっと走り戻って、ゆうに手渡してくれい」

と、いった。

懐紙を出して、馬上のまま彼は何か走り書した。それを文結びにして、

「わしは、ぼつぼつ先へ行っているぞ。あとから来い」

と、熊太郎に促した。

熊太郎は、それを預かると、畏まってすぐあとへ駈けて行った。半兵衛はもういちど南禅寺の境内を見下ろしていたが、

「――ああ、誤らした。自分の踏んで来た道には、毛頭悔いはないが、妹には、女の道を」

と、愁然、口のうちでつぶやきながら、駒の歩むにまかせて行った。

さむらいの道は一筋だ。かつて栗原山を下りて以来、目ざして来たこの道にくるいはない、悔恨はない。たとえ今日、人生を終るまでも。

けれど彼として――いや兄として、たえず心ぐるしく思われて来たことは、妹のゆうが秀吉の側室にいることだった。それは自然といえば極めて自然なうちにそうなって来た運命ともいえるが、彼の潔白がゆるさないのである。