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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

やがて筑前どのが御登城の時刻も近づいて候うとある。信長は宗易をのこして天守閣へ立ち去った。

陽はたかく、冬の朝はあたたかに煙っている。木々の梢の氷花も露ときらめき、一望、安土の全市も、霜に濡れていた。

「ええ、ほウい」

「えーッ、ほウッ」

旺んな声が、麓の城門から聞えて来た。信長は眼をこらした。彼のそばには、簾中の女房衆もおり、子息たちもいた。もちろん近習小姓は居ならんで、みな朝陽のなかに眩ゆげな顔をそろえていた。

「やあ、あれか」

信長の嘆声だった。

今の信長をして、目をみはらせる程な物資は、けだし容易な物ではない。

その信長が、

「――見ずやあれを」

と、指さしながら、傍らの人々を顧みながらいうのである。

「何と、夥しい進物の台の数ではないか。あれがみな筑前の手みやげなりと彼は云いおる。中国入りのしるしまでに、携えて来た進物とは、いやさすがに、大気者大気者。あはははは」

実に愉快そうに信長は眺めて止まず、笑って止まなかった。

けれど、彼以外の人々は、ただ眼をうばわれていた。また、胆を飛ばしていた。

およそ、安土城が創まって以来の出来事にちがいない。山麓から目の下まで、かなり長い坂道の門から門のあいだは、後から後からと担い上げて来る、進物台の列でうずまったまま、いくら見ていても、列が終りそうもない程だった。