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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
06 第六分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页
「宗易。あれなら御師範として、申し分はありますまい」
「織田の軍が、初めて、堺へお討入りのせつ、どこやらの家で、お茶をあがられ、その折、侍坐しておられた筑前どのが、挨拶に見えた千宗易を一見されて――これは名器だ――と仰っしゃったそうな」
「そんなことを云いましたな。はははは」
「後に、それを思い合わされてか、安土へ召しよばれ、近ごろでは、ここの御亭主がよく仰せられるおことばにも――筑前は大気、宗易は名器、一対の者と、一しおお目にかけられておられます」
亭主の信長は、初めて口をさし挟んで、
「筑前には、その後、宗易とも久しゅう会わぬことであろうの」
「はい。両三度は、何かの折に相見ておりますが、中国へ参って以後は」
「幸いじゃ。あとでこれへ呼ぼう」
「ほ。参っておりましたか」
「水屋をいたしおる」
「それは、ぜひ……」
と、待ちもうけている折へ、縁をめぐって来る静かな跫音がした。
「宗易か」
「はい」
「入るがよい」
そこの障子が腰低くあいて、冬日の中に宗易のすがたが見えた。
宗易が加わってからそこの座談はなお賑わった。多くは他愛ない世事ばなしである。また、茶器名物のことなどだった。