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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

早々、城門ヲ開カレ、本領ノ安堵ヲコソ計ラセ給ヘ。

織田中将信忠、情ヲ叙ベテ、敢テ勧ム。

「甘いものだな。見え透いたこんな小手技を、兵法とでも思うているのか」

その夜、五郎信盛は、小宴をひらいて、家の子郎党たちに、その書を示し、

「もし、これに意をうごかす者があるなら、遠慮はない、明夜までに、裏谷からこの城を落ちて行くがいい」

鼓を打ち、謡を微吟し、いと楽しく夜を更かした。

その夜に限って、各侍大将の妻女たちも召しよばれ、一巡り杯を賜わった点などから、一同は早くも、

「こよい限りのお胸であるな」

と、直感していた。

果たして、翌二日の朝、五郎信盛は、大薙刀を杖ついて、左の太い足に、草鞋をくくりつけ、その片足を引き摺り引き摺り城の多門まで歩いて来て、

「昨夜来、なおこの城にふみ止まり、今日をここに待ち合わせたる人々は、一同、この下に集まり候え」

と、命じて、自分は多門の上へ登って行った。

やがて、床几を置かせて、多門の上から彼が見まわすと、城中の老幼婦人をのぞいた精鋭の将士千人足らずの人数は、ほとんど一名も減っていなかった。

「…………」

黙祷でもしているように、彼はしばらく頭を下げていた。